抄録
湛水条件下のダイズでは胚軸に二次通気組織(SAE)が形成される。SAEは、皮層でのプログラム細胞死により形成される破生通気組織とは違い、二次分裂組織(コルク形成層)由来生細胞の伸長に伴い生じる、細胞間隙に富んだスポンジ状組織である。SAEは、湿性マメ科植物で特徴的な組織であり、イネで良く研究されている破生通気組織同様、嫌気条件下の根と地上部の間のガス交換を担うが、その形成機構はほとんど明らかになっていない。
播種10日後にダイズ(品種エンレイ)を湛水すると、SAEが胚軸に3~4日で形成され、その後、放射状ならびに長軸に沿って徐々に拡がった。一方、1 μMアブシジン酸(ABA)溶液でダイズを湛水するとほぼ完全に形成が抑制された。イネの冠水応答では、ABAが負の、エチレンが正の制御因子として機能していることから、ダイズのSAE形成におけるエチレンが関与する可能性を検討した。公的データベースに見出されたダイズ由来エチレン生合成系酵素遺伝子群に特異的なプライマーを設計し定量的PCR解析を行ったところ、湛水により誘導されるACC合成酵素遺伝子(GmACSd)が見いだされた。GmACSdの発現は、灌水区(コントロール)では若干低下するのに対し、湛水では4日には誘導され、ABAで湛水した際には誘導されないことから、本遺伝子は、SAE形成時に誘導されるACC合成酵素遺伝子と考えられた。