抄録
ブラシノステロイドは発生・成長・生殖などの植物生長の様々な過程で重要な生理機能を発現している。我々は、ブラシノステロイド生合成阻害剤Brzを用いた化学遺伝学(ケミカルジェネティクス)により、ブラシノステロイド情報伝達機構の解明を試みている。
暗所Brz存在下発芽において、胚軸が矮化し子葉が開く、暗所光形態形成を示さない胚軸徒長形質bil (Brz-insensitive-long hypocotyl)変異体として、細矮性slender dwarf様の特徴的な矮性形質を示す半優性形質のbil5を単離した。このbil5変異体受容体bri1の2重変異体ではbri1の示す矮性形質からの回復が認められた。また、野生型植物にブラシノステロイド刺激を与えると、脱リン酸化により低分子量側にシフトするbHLH型転写因子BES1タンパク質が、bil5変異体においては、無刺激状態でも低分子量の脱リン酸化型のBES1タンパク質が多量に存在していることが確認され、bil5変異原因遺伝子がブラシノステロイド情報伝達の主要因子である可能性が示唆された。さらに、細胞生物学的解析を行った所、花茎における維管束の数が増加していること、茎直径に対する維管束領域の存在比が増加している等、細胞分化への関与も明らかとなった。