抄録
高等植物の液胞は,植物個体の発生と生長に必須なオルガネラである.私たちは,液胞膜上に生じる複雑な膜構造bulbを見出し,その生物学的意義と機能,分子基盤を探るべく研究を進めて来た.今回は遺伝学的なアプローチについて報告する. 逆遺伝学的な解析として,bulbの出現頻度に異常が生じる可能性がある既知の変異体に,bulbを可視化するマーカーを導入した.その結果,液胞の形態異常が知られている一群の変異体(zig-1/atvti11, sgr2, sgr3)で,bulbが著しく減っていることがわかった.一方で,オートファジーの変異体(atg2, atg5)ではそれほど顕著な減少は見られなかった.このことは,オートファジーはbulb形成の主たる経路ではないことを示唆する.また,bulbのマーカーラインを用いた順遺伝学的解析にも着手した.vam3-1変異体に,VAM3のプロモーターでGFP-VAM3を発現させたラインは,bulbを可視化し,vam3-1変異体の持つ巨視的な表現型を相補する.このラインを親株に,EMS処理によって変異体プールを作成した.巨視的な表現型を指標にまず一次スクリーニングを行い,その後顕微鏡観察により液胞の形態やbulbに異常を生じる候補株を探索中である.これについても併せて報告したい.