抄録
S-like リボヌクレアーゼ(RNase)は、一般的な植物ではリン酸飢餓や病原菌感染等のストレスに応答して誘導されることが知られている。近年我々は、食虫植物Drosera adelae(ツルギバモウセンゴケ)、Dionaea muscipula(ハエトリソウ)、Cephalotus follicularis(フクロユキノシタ)の各消化液中に、S-like RNaseが含まれていることを発見した。また、対応する遺伝子を単離し(それぞれ、da-I、dm-I、cf-Iと命名)、組織ごとの遺伝子発現解析とプロモーターのメチル化解析を行った。その結果、da-I遺伝子は腺毛でのみ発現し、そのプロモーターは葉では高メチル化状態にあるが、腺毛ではメチル化されていないことが判明した。また、dm-I遺伝子は解析した全組織で発現し、そのプロモーターはどの組織でもメチル化されていないことが示唆された。cf-I遺伝子の発現は捕虫葉に限られていることが分かったが、そのプロモーターはdm-Iプロモーターの場合と同様、どの組織でもメチル化されていないことが判明した。以上から、食虫植物のS-like RNase遺伝子の発現様式はストレス応答的ではないことが明らかになった。また、その発現制御機構が確立される過程には進化的類縁関係よりも捕虫様式の方がより深く関わったものと考えられる。