抄録
植物は、傷害ストレス下で(Z)-3-ヘキセナール等のC6-アルデヒド類を生成し放散する。これらは自己防御反応を誘導するシグナル分子の一つと考えられている。これらC6-アルデヒド類は、膜脂質からリパーゼの加水分解作用で生じた遊離の不飽和脂肪酸にリポキシゲナーゼ(LOX)が作用し、生成した過酸化脂肪酸(HPO)がヒドロペルオキドリアーゼ(HPL)によって開裂されることにより生成すると考えられている。しかしながら、シロイヌナズナ(No-0)の葉を破砕後に、C6-アルデヒド類と12-オキソ-(Z)-9-ドデセン酸量を比較したところ、C6-アルデヒド類に比べて12-オキソ-(Z)-9-ドデセン酸の検出量は著しく少なかった。また、HPL活性のないシロイヌナズナのエコタイプであるCol-0の葉を破砕するとアラビドプシド類の蓄積が検出された。さらに、遊離の過酸化不飽和脂肪酸だけでなく、モノガラクトシルジアシルグリセロールヒドロペルオキシドもHPLの基質となった。これらの結果は、シロイヌナズナのみどりの香り生合成経路に、遊離の12-オキソ-(Z)-9-ドデセン酸を生成しない別の経路があることを示唆している。この経路では、脂質はリパーゼを介さずにLOX,続いてHPLの作用を受け、12-オキソ-(Z)-9-ドデセン酸をアシル基にもつ糖脂質コアアルデヒドが生成すると考えられる。