抄録
植物の無機元素輸送に関わる遺伝子の探索において、植物体内の元素濃度の網羅解析であるイオノームは強力な解析法の一つである。イオノーム解析では、元素吸収・輸送に異常を示す多数の植物系統を、統計に基づいて定量的かつ客観的に評価できるという利点がある。当研究室でも、これまでArabidopsis Col-0とLerの多元素比較解析により、Mo輸送体遺伝子MOT1を同定することに成功している。そこで今回、この多元素比較という手段をより広範囲の遺伝子資源に適用するために、ナショナルバイオリソースプロジェクトから分譲を受けた約3000系統のメチルニトロソウレア処理イネ突然変異系統を用いて、大規模なイオノーム解析を進めている。一次スクリーニングでは、栽培スペースの省力化や酸分解の効率化を検討し、我々は128穴セルトレーで栽培したイネから導管液を個体ごとに採取し、組織の分解を経ずに、直接ICP-MSで分析できる手法を確立した。さらに、導管液採取の過程で得られるイネ地上部、および再生イネ個体の種子を系統ごとに保管し、一度の栽培期間で導管液、地上部、および種子に至るまで、同一個体で高次的にスクリーニングできるシステムを考案した。これにより、根から地上部および種子に至るまでの経路の多元素輸送を効率的にモニターすることが可能である。現在、種子中のCdが著しく増加した変異株など複数の候補株を得ている。