抄録
シアノバクテリアは呼吸電子伝達鎖と光合成電子伝達鎖がプラストキノンプールを共有しており、光化学系IIとNADH脱水素酵素複合体が共にプラストキノンを還元する。呼吸電子伝達鎖が光合成電子伝達に与える影響を明らかにするために、Synechocystis sp. PCC 6803のNADH脱水素酵素複合体の第5サブユニットをコードする遺伝子であるndhF1 (slr0844)を破壊した株を解析した。PAMクロロフィル蛍光測定により求めた生育光強度(20μmol/m2/s)での光合成電子伝達の実効量子収率ΦIIはndhF1破壊株の方が野生株よりも高くなっていた。しかしながら、酸素電極を用いて測定した飽和光照射下での光合成電子伝達活性は、野生型とndhF1破壊株で大きな違いは見られなかった。低温クロロフィル蛍光スペクトルの測定によって、野生型は15分間の暗順応によりステート2になるが、ndhF1破壊株では暗順応をしてもステート2になりにくいことが明らかになった。呼吸の末端酸化酵素の阻害剤であるKCNを添加するとどちらの株も暗順応でステート2になる。以上の結果は、ndhF1破壊株においては、NADH脱水素酵素複合体の活性低下によりプラストキノンプールがより酸化的になり、ステート2になりにくくなった結果、高い光合成の実効収率を示すと結論できる。