抄録
イネ(あきたこまち)では、幼苗全体を10°C前後の低温に1週間程度さらしても可視的な障害は起こらない。しかし地上部だけを10°Cの低温にさらし、地下部は25°Cに保っておくと、2、3日の低温処理中に葉の変色、脱色、枯死等の可視的障害が起こる(12h明期-12h暗期の場合)。暗黒条件でも低温処理後の光により障害が誘発される。この障害に先立ち、光の有無に関係なく24時間以内に光化学系IIと光化学系Iの間の電子伝達の遮断が起こり、光化学系Iの循環的電子伝達能力が失われることを明らかにしてきた。今回暗条件下で低温処理中の幼苗を用いてより詳細に比較検討したところ、地上部だけ1日以上低温処理した幼苗の葉では、光に関係なく光化学系IIのQAとQBの間の電子伝達能が喪失することを確認した。そこに光が当てても光化学系Iへの電子伝達、光化学系Iの循環的電子伝達、チラコイド膜内外のプロトン濃度勾配の形成、光依存性のzeaxanthin濃度の上昇のいずれも起こらないことがわかった。根も葉も同時に低温処理した場合はこれらが起こることを考えると、高地温に特異的なこの低温障害での最初の障害はQAとQBの間の電子伝達の遮断で、その結果熱放散能が喪失し、光照射下で活性酸素等により枯死等の可視的な障害を引き起こすものと考えられる。