抄録
クロロフィル蛍光法は光化学系2で吸収された光エネルギーのうち光合成電子伝達に利用されたエネルギーの割合(電子伝達の量子収率、Φ2)を簡単に算出する方法として、生理生態学分野で広く利用されている。クロロフィル蛍光測定において、吸収された光エネルギーのうち、電子伝達に利用されなかった部分(1-Φ2)は、蛍光パラメータNPQに相関した熱放散および、コアアンテナと反応中心でのクロロフィル脱励起にともなう熱放散として計算される。これらの光エネルギー分配の測定の多くは屋内栽培の植物体を用いた解析であるため、圃場レベルでの植物体におけるエネルギー利用を理解するには不十分である。そこで、我々は屋外で生育されたイネにおける、光化学系2に吸収された光エネルギー分配について、Hendrickson et al. (2004)のモデルに基づく定量化を試みた。梅雨明けの7月から穂の実る9月までの間、水田ほ場で栽培している日本晴植物体におけるクロロフィル蛍光解析を日の出から日の入りまで行うことにより光エネルギー利用及び熱放散の周日変化、一日単位でのエネルギー利用率を算出した。同時に、明反応制御機構のうち光阻害についての周日変化についても測定し、光阻害の誘導条件、および光阻害のエネルギー利用効率に与える影響について考察し、屋内実験との比較検証を行った。