抄録
ステート遷移は、光合成電子伝達反応を駆動する光化学系I(PSI)と光化学系II(PSII)の間の励起エネルギー分配を調節する機構である。PSIの外縁部に存在するサブユニットの一つであるPsaLは、シロイヌナズナではステート遷移に関与すると報告されているが、機能の詳細は不明のままである。PsaLのステート遷移における役割を明らかにするために、我々は高等植物に比べてステート遷移活性の高い緑藻クラミドモナスからRNAiによるPSALノックダウン株(PsaL-RNAi株)を作製し、解析を行ってきた。PsaL-RNAi株の細胞を、ステート1および2の誘導条件下で培養し低温蛍光スペクトルを測定したところ、ステート1ではcw-15(コントロール株)と差が無かったが、ステート2ではPSIの蛍光収率が大きく低下していた。次に、ステート2条件で培養した細胞からチラコイド膜を単離し、ショ糖密度勾配遠心によってクロロフィルタンパク質を分離したところ、PsaL-RNAi株ではPSI-LHCI/II超分子複合体を含むA3’画分が著しく減少していた。これらの結果は、PsaLがステート遷移の、特にPSI-LHCI/II超複合体の形成において重要な役割を果たしていることを示している。現在、PsaLの生理学的役割について調べるために、様々な光条件におけるPsaL-RNAi株の生育を解析している。