抄録
植物に限らず、真核ゲノム上で新規のプロモーターや転写領域が出現するメカニズムはまだよく分かっていない。私たちは、シロイヌナズナをモデルにして、ゲノム上で新規のプロモーターが出現するメカニズムについて解析を進めてきた。その結果、ゲノム中に新規のコード領域配列が挿入されると、その5'末端近傍でしばしば新たな転写開始点が出現すること、さらに、これらのゲノム領域をクロマチン免疫沈降法によって解析したところ、コード領域の挿入によって周辺のヌクレオソームにリモデリングが生じ、新たにプロモーター機能を持ったクロマチン領域、つまりプロモーター領域が形成されていること、などが明らかになった。これらの知見は、プロモーターの本質・実体は、その領域の塩基配列自体にあるのではなく、周辺配列との相互作用によってその領域のエピゲノム上に形成される特殊なクロマチン構造にあることを示している。本研究では、コード領域配列のどのような因子がこのようなプロモーター形成を誘導するのかを、様々なキメラ遺伝子を導入した形質転換植物を用いて解析した。その結果、少なくともシロイヌナズナのゲノムでは、コード領域のATG開始コドンがこのようなプロモーター機能の誘導に関与していることが示された。以上の知見を基にして、真核ゲノム上で新規のプロモーターが出現するメカニズムについて、一つのモデルを提案する。