抄録
細胞内共生により誕生した葉緑体は共生成立以降、自身のゲノム上にコードされていた大部分の遺伝子を消失しているが、陸上植物の葉緑体ゲノムには120前後の遺伝子が残存し核ゲノムとは異なる遺伝子発現系を有する。葉緑体には2つのRNAポリメラーゼ、バクテリア型 RNAポリメラーゼ(PEP)と、T7ファージ型 RNAポリメラーゼ(NEP)が存在する。シグマ因子はPEPのプロモーター認識と転写開始に関わる制御因子であることが知られている。緑藻クラミドモナスの核ゲノムにはシグマ因子が1種のみコードされているが、被子植物であるシロイヌナズナでは6種のシグマ因子が(SIG1~SIG6)、緑藻から被子植物への進化の中間段階に位置するコケ植物では3種(SIG1, SIG2, SIG5)のシグマ因子が核ゲノムにコードされている。つまり、シグマ因子の種類は陸上植物が進化していく過程で増加しており、葉緑体ゲノムにコードされている遺伝子の発現制御が多様化したものと考えられる。演者らは、陸上植物の進化を解明する上で有用なモデル植物である基部陸上植物ゼニゴケにおいてMpsig1T-DNA挿入変異体を同定し、MpSIG1が少なくとも光化学系I複合体の蓄積に関与している事を明らかにした。本研究により、陸上植物におけるシグマ因子の多様化の一端や未だ明らかとなっていないシグマ因子の機能を明らかにできるものと期待される。