抄録
Bax inhibitor-1 (BI-1) は高等動植物が共通に持つ小胞体局在の細胞死制御因子であり、様々な環境ストレス下における酸化ストレス誘導性細胞死の抑制に寄与する。シロイヌナズナのBI-1 (AtBI-1) は小胞体においてスフィンゴ脂質代謝酵素と相互作用することから、スフィンゴ脂質がBI-1の作用機構に重要な役割を持つことが示唆されている。スフィンゴ脂質は細胞膜マイクロドメインの主要構成因子であり、その分子組成の変化はマイクロドメイン機能に影響を及ぼすことが予想される。そこでAtBI-1過剰発現イネ培養細胞の細胞膜マイクロドメイン構成成分を解析したところ、スフィンゴ糖脂質の増加とタンパク質プロファイルの変化が見出され、AtBI-1によるスフィンゴ脂質代謝の亢進が細胞膜マイクロドメイン構造に影響を及ぼすことが明らかとなった。さらにショットガンプロテオーム解析により、AtBI-1過剰発現細胞で顕著に減少しているタンパク質として過敏感細胞死関連因子やシグナル伝達複合体形成に関与する因子が同定され、これらを介した細胞死抑制メカニズムがBI-1の下流で機能していることが示唆された。本発表では、同定したマイクロドメイン局在タンパク質のストレス誘導性細胞死における機能について報告し、植物の細胞死制御機構における細胞膜マイクロドメインの役割について議論したい。