抄録
高等植物の細胞膜プロトンポンプ(H+-ATPase)は、ATPの加水分解エネルギーを利用してH+の能動輸送を行い、様々な二次輸送体と共役した物質輸送、細胞の恒常性維持や細胞伸長において重要な役割を果たしている。最近の研究により、H+-ATPaseのC末端から二番目のスレオニンのリン酸化とリン酸化部位への14-3-3蛋白質の結合が、高等植物に共通した活性化機構であることが明らかとなってきている。しかし、現存する陸上植物の中で最も進化的に古い系統と考えられる苔類のH+-ATPaseについては、これまで解析が行われていなかった。そこで本研究では、苔類ゼニゴケのH+-ATPaseについて解析を行った。ESTデータベースの検索の結果、ゼニゴケには少なくとも8つのH+-ATPase遺伝子が存在することが明らかとなった。興味深いことに、4つの遺伝子はC末端のスレオニンを含む典型的な高等植物タイプのH+-ATPaseであったが、残りはC末端領域を欠く高等植物には見られないタイプのH+-ATPaseであった。RT-PCR解析の結果、葉状体では両タイプのH+-ATPaseが共に発現していた。現在、カビ毒素フシコクシンや様々な生理的刺激による高等植物タイプのH+-ATPaseのリン酸化に対する影響を調べており、これらの結果についても報告する予定である。