抄録
細胞膜プロトンポンプは、細胞膜を介したH+の電気化学的勾配を形成する一次輸送体である。これまでの研究により、プロトンポンプはC末端スレオニン残基のリン酸化とリン酸化部位への14-3-3蛋白質の結合によって活性化されることが明らかとなっているが、この反応を触媒するプロテインキナーゼやホスファターゼは不明である。本研究では、ホスファターゼの同定を目指して生化学的解析を行った。
シロイヌナズナ黄化芽生えより単離した細胞膜を用いて、プロトンポンプのin vitro脱リン酸化反応を調べた結果、細胞膜中にプロトンポンプを脱リン酸化するホスファターゼが存在することが明らかとなった。次に、各種阻害剤の影響を調べた結果、脱リン酸化は2価カチオンキレート剤であるEDTAにより阻害されたが、タイプ1/2Aホスファターゼの阻害剤であるカリクリンAには阻害されなかった。さらに、脱リン酸化はMg2+またはMn2+要求性を示したことから、ホスファターゼはタイプ2Cホスファターゼ(PP2C)である可能性が高いと考えられた。興味深いことに、脱リン酸化は細胞膜を1% TritonX-100で処理した不溶性画分においても観察され、ホスファターゼは不溶性画分に存在することが示唆された。現在、質量分析により不溶性画分に含まれるPP2Cの同定を試みており、この結果についても報告する予定である。