抄録
植物の孔辺細胞は植物ホルモンアブシジン酸(ABA)に応答して気孔閉口する。その反応において、セカンドメッセンジャーが産生され、イオンチャネルの活性化調節を行なわれる。しかしながら気孔におけるABAシグナル伝達経路については全容が解明されていない。ホスフォリパーゼD (PLD)は細胞膜のリン脂質を加水分解しホスファチジン酸を産生する酵素である。シロイヌナズナゲノムにおける12個のPLD遺伝子のうちPLDα1とPLDδの二重変異体pldα1pldδは乾燥ストレス条件下において著しくPA産生を損なわれた。またABA誘導気孔閉口においても、pldα1とpldδの各一重変異体は、ABAに対して感受性を示し、pldα1pldδはABAに対し非感受性を示した。野生型とPLDの各変異体はPAやH2O2によって気孔閉口を誘導した。さらにABA誘導気孔閉口で検出される孔辺細胞でのROS産生及び細胞質のpHアルカリ化は、pldα1pldδで欠失していることが明らかとなった。この結果より、PLDα1とPLDδはABA誘導気孔閉口において重複した機能を持ち、また、孔辺細胞のABAシグナル伝達においてROS産生、細胞質アルカリ化の上流で機能していることが示唆された。