抄録
植物は水ストレス時にはアブシジン酸(ABA)を介して気孔を閉鎖して体内からの水分損失を防ぐ。気孔を構成する孔辺細胞において、ABA情報伝達は、最近同定されたABA受容体から蛋白質のリン酸化を介して開始されると考えられている。しかし、その下流においてイオン輸送の制御を担う分子機構はよくわかっていない。我々は、生化学的手法によりシロイヌナズナ孔辺細胞でABAに応答して素早くリン酸化され14-3-3蛋白質と結合する3つの新規bHLH転写因子様蛋白質を見出し、ABA-responsive Kinase Substrates (AKS1, 2, 3)と命名した。遺伝子破壊株のaks1aks2では光やfusicoccinによる気孔開口速度が低下していたが、ABAによる気孔閉鎖は正常だった。aks1aks2の孔辺細胞では、気孔開口を駆動する細胞膜H+-ATPaseの活性化は正常だったが、KAT1を含む内向き整流性K+inチャネルの発現、K+inチャネル活性とK+取込み活性が低下していた。AKS1は転写促進因子でABAにより阻害された。クロマチン免疫沈降解析で、AKS1がKAT1プロモーターに結合し、ABAによるリン酸化に依存して解離した。以上の結果から、ABAはbHLH転写因子をリン酸化して遺伝子発現を抑制し、気孔開口を阻害していることが示唆された。