抄録
植物はCO2濃度に応じて気孔開度を調整しているが、その応答性に異常をきたした変異体としてht1(high leaf temperature 1)が単離されている。ht1はCO2応答性に異常を示すものの、他の気孔開口・閉鎖シグナル(光・ABA)に対する応答性は正常である。またHT1はキナーゼをコードしており、孔辺細胞特異的に発現している。よってHT1キナーゼは、光やABAシグナル伝達経路とは独立した、CO2シグナル伝達経路で機能する因子であると考えられる。孔辺細胞内CO2シグナル伝達経路では、CO2はCA(炭酸脱水酵素)によってHCO3-に変換され、その後H2O2の生成を誘発することで、最終的に気孔閉鎖を引き起こすことが知られている。しかし、CO2シグナル伝達経路において、HT1キナーゼの機能する位置や、H2O2発生との関係はまだ分かっていない。そこで、孔辺細胞内CO2シグナル伝達経路におけるその作用機作の検証を行った。ht1においては、H2O2投与による気孔閉鎖は確認されたものの、HCO3-投与による気孔閉鎖やNADPHオキシダーゼの阻害剤DPI投与による気孔開度の回復は確認されなかった。このことから、HT1キナーゼは孔辺細胞内CO2シグナル伝達経路において、HCO3-生成の下流に位置するが、NADPHオキシダーゼによるH2O2の発生には大きな影響を与えていない可能性が考えられた。