抄録
植物の表皮に存在する気孔は、その開度を調節することにより、植物と大気間のガス交換を調節している。本研究では、気孔開閉のシグナル伝達の分子機構を明らかにすることを目的として、EMS処理したシロイヌナズナを用い、葉の重量変動を指標にした気孔開度変異体のスクリーニングを行った。単離した rtl(rapid transpiration in detached leaves)1 変異体は、矮性・ペールグリーンであり、アブシジン酸(ABA)存在下でも気孔が閉鎖しないABA非感受性の表現型を示した。マッピングによる原因遺伝子の同定の結果、rtl1変異体には第5染色体のMg-キラターゼHサブユニット遺伝子(CHLH)にミスセンス変異を引き起こす1塩基置換が存在することが明らかとなった。CHLHはクロロフィル生合成に関わる酵素であり、近年、ABAとの結合能からABA受容体としても機能することが報告されている(Nature 2006, Plant Physiol. 2009)。そこで、3H-ABAを用いて結合解析を行ったが、組換えCHLHとABAの特異的な結合は観察されなかった。以上の結果から、CHLHがABA受容体である可能性は低いものの、気孔のABAシグナル伝達に何らかの影響を与えていることが示唆された。CHLHのABAシグナル伝達への関与について考察したい。