抄録
一部のシアノバクテリアは、赤色光を吸収するフィコシアニンと、緑色光を吸収するフィコエリスリンの組成を調節する。この現象は、緑色光吸収型(Pg)と赤色光吸収型(Pr)の間で光変換するフィトクロム型光受容体(シアノバクテリオクロム)によって制御される。この光変換には、開環テトラピロール色素であるフィコシアノビリン(PCB)のC15-Z/E変換が関わる。本研究では、Pg/Pr変換型シアノバクテリオクロムであるRcaEの吸収スペクトルのpH依存性を調べた。低pHではPgがPrに変換、高pHではPrがPgに変換し、これらの滴定曲線はヘンダーソン・ハッセルベルヒ式で非常によく近似された。これは、PCBが脱プロトン化するとPgを形成し、逆にPCBがプロトン化するとPrを形成することを強く示唆している。また、pKaは、C15-ZのPCBでは約5.5、C15-Eでは約8.0と大きくシフトしていた。つまり、光照射によるPCBのC15-Z/E変換がpKaのシフトを引き起こし、プロトン分子の脱着によって吸収型の変換が起こることが明らかとなった。これは、色素がPrとPfrの両方でプロトン化されているフィトクロムとは異なる、新規の光変換機構である。アミノ酸置換変異体の解析により、色素近傍のリジンとグルタミン酸がE型のPCBをプロトン化し、ロイシンがZ型のPCBの脱プロトン化を保持していることが示唆された。