抄録
高等植物の葉緑体には,チオレドキシン (Trx) を介した光依存的な酸化還元による活性調節機構が存在し,カルビン回路など多くの経路がこれにより制御されている.一方,水圏の主要な一次生産者である珪藻類の葉緑体では Trx の存在は確認されているものの,その標的分子及び生理的意義は知られていない.本研究では,海洋性珪藻 Phaeodactylum tricornutum の葉緑体における無機炭素獲得系の酸化還元制御について調べた.P. tricornutum には二つのピレノイド局在型βカーボニックアンヒドラーゼ,PtCA1 及び 2 が存在し,無機炭素濃縮機構に重要な役割を担うと考えられている.これらの成熟型を大腸菌で発現し,シロイヌナズナ由来の二種の葉緑体型Trx (AtTrx-f2/-m2) 及び珪藻由来の葉緑体型 Trx (PtTrxM) 存在下及び非存在下でCA 活性を比較した.Trx と DTT を共添加したときに CA 活性が大幅に上昇したことから,PtCA1 及び 2 が Trx の標的酵素の一つであることが示唆された.PtCA1 及び 2 の活性部位以外の二つの Cysを Ser に置換した変異体を作製し,CA 活性測定及び非還元 SDS-PAGE を行った.その結果,分子内ジスルフィド結合を形成することによって,CAが不活性化されることが明らかになった.