抄録
枯草菌RuBisCO-like protein (RLP) は硫黄代謝においてジケトメチルチオペンチルリン酸のエノール化を触媒し、この反応はRuBisCOのCO2固定反応の初発段階であるリブロースビスリン酸のエノール化と類似している。両酵素がエノール化を触媒するにはCO2によるK201のカルバミル化が必須であり、この触媒塩基の形成により酵素が活性化状態となる。興味深いことに、RLPは低CO2濃度下(約2μM)においてRuBisCOよりも高い活性化率を示す。RLPのこの性質に関与する残基として、カルバメート酸素と水素結合(2.8Å)を形成するH294が予想された。H294Q、N、A変異RLPはkcatが野生型の2-8%、Kmが2.2-3倍に変化し、最大活性発揮に野生型より高いCO2濃度を必要とした。この結果から、RLPのH294は低CO2濃度下での活性化維持に寄与すると予想された。H294は全てのRuBisCOとRLPで保存されているが、植物RuBisCOではH294とカルバメートの距離が3.4Å以上離れており、この残基の活性化維持への寄与は低いと考えられた。植物はRuBisCOの活性化調節により環境に応じた光合成最適化を可能としている。植物RuBisCOはH294の活性化維持機能を低下させることで、活性化が調節可能なRuBisCOへと適応させているのかもしれない。