抄録
光化学系II蛋白質で行われる光合成水分解反応は、5つの中間状態 (S0-S4) のS状態サイクルにより進行する。このサイクルの平均遷移効率は様々な手法により見積もられてきたが、各S状態遷移のそれぞれの効率の評価はこれまで困難であった。正確な遷移効率を決定することは、光合成水分解反応の理解のために必要不可欠である。そこで本研究では、フーリエ変換赤外(FTIR)分光法を用いて各S状態遷移の効率を見積る手法を新たに開発した。好熱性シアノバクテリアThermosynecoccus elongatusの光化学系IIコア複合体に人工電子受容体フェリシアン化カリウムを添加し、測定用試料とした。この系II試料の各閃光誘起FTIR差スペクトルには、S状態遷移の構造変化に由来するシグナルと、水分解系から人工電子受容体への電子移動に由来するシグナル(フェリシアン化物イオンとフェロシアン化物イオンのCN伸縮振動)が観測された。フェロ/フェリのバンド強度の閃光数依存性は、水分解反応に特徴的な4閃光周期振動を示した。シュミュレーションの結果、S1->S2, S2->S3, S3->S0, S0->S1遷移の効率が、それぞれ、92, 91, 88, 93%と見積もられ、S3->S0遷移が最も小さい効率を示した。このような傾向は、ホウレンソウの試料においても見られ、酸素発生系の一般的な性質であることが示された。