抄録
ラン藻 Synechocystis sp. PCC 6803の光化学系II複合体(PSII)のプロテオミクスにより、PSIIには複数の機能未知タンパク質が共存することが示唆されている。そのうちの一つSll1252は、N末側の伸長領域とC末の側のS4様ドメインを持ち、全ての光合成生物にホモログ遺伝子が保存されている。S4ドメインの上流に薬剤耐性遺伝子を挿入した、Sll1252挿入破壊株(sll1252ins)は弱光下では生育できたが、強光条件では顕著な光傷害を示した。変異株のPSII活性と呼吸活性は野生株と同程度であったが、全体の電子伝達活性(H2O →MV)は低下していた。DNAマイクロアレイ解析の結果、Sll1252ins株は野生株をDBMIB処理した場合と極めて類似した遺伝子発現プロファイルを示し、そのPQ-poolは野生株より還元状態であったことから、sll1252ins株はPQを介したPSIIからCytb6/fへの電子伝達に異常をきたしていることが示唆された。強光での増殖速度及び全体の電子伝達活性(H2O →MV)が野生株レベルに回復した復帰変異株を取得したところ、その全てでカナマイシン耐性遺伝子の直後に内在性の転移因子が挿入されていたことから、Sll1252のN末端側ないしC末端側断片の発現がPSIIからCytb6/fへの電子伝達に異常を引き起こす可能性が示唆された。