抄録
前形成層・形成層細胞から成る維管束分裂組織は、篩部と木部の境に存在し、植物体の二次肥大成長をつかさどっている。これまでの研究から、維管束分裂組織において幹細胞を維持する細胞間シグナルの一つとして、CLE ファミリーに属す分泌性ペプチド TDIF が働くことが明らかになってきた。篩部細胞より分泌された TDIF はロイシンリッチリピート型受容体キナーゼ TDR/PXY を介して前形成層細胞に受容される。このシグナルが前形成層細胞の木部分化を抑制することが、幹細胞および分裂組織の維持に不可欠である。しかしながら、維管束の継続的な二次肥大成長にわたって TDIF シグナルがどのように働いているのかは明らかになっていない。
本研究では、シロイヌナズナの維管束二次肥大成長において TDIF シグナル系関連遺伝子変異体群の詳細な表現型解析を行うことを目的として実験を行った。TDIF をコードする CLE41 遺伝子および受容体をコードする TDR 遺伝子などの維管束組織特異的遺伝子のプロモーター GUS マーカーのコンストラクトを作成し、野生株および各変異体へと導入した。このマーカーラインを用いた組織学的な解析をもとに、TDIF シグナルの前形成層・形成層への作用について報告する。