抄録
トマト果実のプラスチドは成熟に従い、葉緑体からクロモプラストへ分化が進むことが知られている。しかし、この成熟・分化のメカニズムは未だにはっきりとはわかっていない。本研究ではEMS処理によって得られた果実の色素異常変異体vo変異体を用いて、クロモプラスト分化や果実の発達・成熟に関与する遺伝子への影響を調べたので報告する。電子顕微鏡観察によりvo変異体と野生型のクロモプラストの形態を観察した結果、野生型に比べvo変異体は、発達した渦巻き構造や電子密度の高い紐状の構造がほとんど見られなかった。次に、HPLC分析による果実のカロテノイド含有量を調べた結果、野生型で多量に蓄積しているリコペンがvo変異体ではほとんど蓄積しておらず、βカロテン蓄積量が野生型と比較し52%増加していた。これらの結果からvo変異体における変異がクロモプラスト分化やカロテノイド合成へ関与することが示唆された。カロテノイド量の変化がカロテノイド合成系の遺伝子発現によるものか調査するために、RT-PCRを用いて葉と果実で調べたがvo変異体と野生型間に転写レベルで違いは見られなかった。vo変異体のカロテノイド合成系が転写ではなく、point mutationによる翻訳の異常に関わることが考えられるため、現在はTILLING解析を用いてカロテノイド合成遺伝子領域へのpoint mutationの有無を確認している。