抄録
多くの斑入り植物体では、異常色素体からなる細胞と正常葉緑体からなる細胞が層状もしくは不均一に分布することにより斑が生じる。この場合、核コードの葉緑体タンパク質の遺伝子に欠損がある突然変異体であるならば、異常色素体と正常葉緑体が1つの細胞内に混ざり合って存在することはないと考えられてきた。もし異質の色素体が細胞内に混在していたならば、それは色素体遺伝子に異常がある色素体が両性遺伝によって混ざり込んだと判断されてきた。
私たちは、核遺伝子の欠損であるにも関わらず、異常色素体と正常葉緑体が1つの細胞内に混在するシロイヌナズナ斑入り突然変異体apg5を見つけた。apg5は、Ac/Dsトランスポゾンタグラインより単離された劣性の変異体で、子葉はペールグリーン、本葉は白いセクターを伴う斑入りの形質を示す。私たちは、透過型電子顕微鏡観察及び色素体YFP発現の形質転換体の観察を行うことにより、apg5の子葉に異常色素体と正常葉緑体の混在細胞が多数存在することを示した。さらに混在細胞の出現時期を特定し、詳細な色素体分布と系譜も明らかにした。核遺伝子の欠損変異体であるにも関わらず異質色素体が細胞内に混在するしくみやAPG5遺伝子の機能について議論したい。