抄録
植物細胞において最大の細胞小器官である液胞は,様々な代謝産物(タンパク質,糖,抗菌物質,有機酸など)を蓄積する場である.特に,種子における液胞はタンパク質貯蔵型液胞と呼ばれ,発芽後の成長に使われる栄養として多くのタンパク質を貯蔵している.液胞に貯蔵されるタンパク質は通常,小胞体上にあるリボソームで合成された後,ゴルジ体やトランスゴルジネットワーク,エンドソームなどの細胞内膜系を経由する小胞輸送機構によって最終目的地である液胞にまで運搬される.これまでに我々が単離したgfs9変異体は,種子貯蔵タンパク質の液胞選別輸送に異常を示す変異体である.今回我々は,gfs9変異体においてタンパク質貯蔵型液胞の構造が小型化していることを発見した.GFS9遺伝子は種子以外の組織でも発現していることが予想されているので,他の組織における液胞の形態の観察を行った.また,gfs9変異体では種皮の色が薄くなっているという表現型も見られた.種皮の色は,フラボノイドの一種であるプロアントシアニジンの蓄積に由来しており,この二次代謝産物は内珠皮第一層の液胞内に蓄積している.そこで,登熟種子における内珠皮細胞の液胞構造についても解析を行った.さらに,gfs9変異体で植物体の矮小化と種子の小型化が見られたことから,液胞の構造異常が植物体に与える影響に関して考察する.