抄録
小胞体は細胞内で最も大きな表面積を持つオルガネラで,複雑なネットワーク状の構造をとっている.これらの構造を支える分子基盤は未知の部分が多い.我々は小胞体をGFPで可視化した形質転換シロイヌナズナGFP-hを利用して,これまでに小胞体の構造異常を示す変異体ermo1とermo2について報告してきた(1).今回発表するermo3変異体においては小胞体ネットワーク上に顆粒状の構造体が観察され,核近傍には長径が50μmに及ぶ巨大な凝集体が観察された.蛍光オルガネラマーカーや蛍光色素を用いた細胞生物学的解析により,ermo3変異体では小胞体のみならず,核を含む内膜系オルガネラの構造や全てのオルガネラの細胞内分布に異常を示していることがわかった.この変異体の原因遺伝子としてGDSL-lipase/esterase faimlyに属する加水分解酵素の一種を同定した.この遺伝子産物は活性中心を欠失していたことから,ERMO3は酵素ではなく結合性タンパク質として働くことが示唆された.ERMO3は,小胞体由来のER bodyの主要構成要素PYK10によって形成される巨大複合体の構成因子でもあった.この結果は,ERMO3とER bodyとの関係性を示唆している.
(1) Nakano, R. T. et al., (2009) Plant Cell.