抄録
植物の必須元素ホウ素は細胞壁に局在し、ペクチンのラムノガラクツロナンII(RG-II)領域に特異的に結合している。このホウ素RG-II複合体の機能を解析する手段として、RG-IIの量や構造を変化させ影響を解析することが有用と考えられる。我々はRG-IIの特異的構成糖2-ケト-3-デオキシオクトン酸(KDO)に着目し、この糖の生合成経路に変異を有するシロイヌナズナの解析を進めている。
CTP:KDOシチジル酸転移酵素(CKS)は、KDOとCTPから糖転移酵素の基質となるCMP-KDOを合成する。この酵素遺伝子のT-DNA挿入ラインにはホモ変異株が存在しなかった。quartet株との二重変異体を用いた解析の結果、cks変異は花粉管の伸長を阻害し花粉の稔性を失わせることが明らかとなった。従って+/cksヘテロ株の自家受粉では野生型花粉のみが授精を行い、後代は胚珠の遺伝子型を反映した分離比を示す。ヘテロ株を通常条件で栽培した場合、自家受粉後代では野生型とヘテロがほぼ1:1に分離したが、ホウ素欠乏条件で栽培すると後代におけるヘテロ株の割合は低下した。以上の結果は、KDOを欠くRG-IIでもホウ素が十分に存在すれば影響が顕在化しない一方、ホウ素濃度が低い場合や急速に伸長する組織においては完全なホウ素RG-II複合体が不可欠であることを示唆する。