抄録
私たちは,高温ストレスにより引き起こされるイネの不稔に関して、外界の温度の感知から受精までの過程に働く分子制御機構の解明を目指して研究を進めている。小胞子期初期にあたる時期のイネに、2日から4日間の昼39℃/夜30℃の高温処理を施すことにより、再現よく不稔を誘発することができる。高温条件下での遺伝子発現の動態を明らかにするため、葯由来のRNAを用いてマイクロアレイ解析を行った結果、高温処理2日後に、同時期の無処理サンプルと比べて発現量が著しく低下する一群の遺伝子を見いだした。これらの遺伝子は、小胞子期の葯に特異的に発現する特性を共有していた。高温に反応して一群の遺伝子の転写を制御する因子の同定を目的として、各遺伝子の上流領域のゲノムDNAを単離し、GUSをレポーターとしてプロモーター解析を行った。これまでに4つの遺伝子の組織特異性と高温応答性の両方を再現するプロモーター断片が得られたので、欠失や変位を導入することにより、遺伝子発現の特性に必要な領域の特定を目指している。
一方、高温によって、葯や花粉の構造や機能がどのようにして損なわれるのかを知るために、高温処理後の葯の詳細な観察を行い,葯や花粉の構造に変化が現れるかどうかを解析するとともに、上述の高温応答性の葯特異的遺伝子に着目し,ノックダウン解析により個々の遺伝子の発現動態と花粉稔性の低下との関連を調べている。