抄録
苔類ゼニゴケは、陸上植物の進化の基部に位置し、頂端成長や植物ホルモン応答といった植物としての基本的な発生様式を持つ。ゼニゴケのゲノムサイズは280Mbと比較的小さく遺伝子重複が少ないことに加え、生活環の大半が半数体であることから変異体の表現型を当代で確認できるなど、順遺伝学研究に用いる上で数々の利点を備えている。さらに近年アグロバクテリウムを用いた高効率な形質転換法に加え、ESTやゲノム解析が急速に進展し、分子レベルの解析基盤が整ってきた。本研究では、ゼニゴケにおける順遺伝学的解析手法の確立を目指し、T-DNAタギング法による変異体の取得と解析を行った。バイナリーベクターpCAMBIA1300を用いて得られた1万株の形質転換体について連続白色光照射条件における形態形成を観察し、同化組織である気室の形態異常株や無性芽を形成する杯状体の形態異常株などを含む、計25株の形態形成変異株を選抜した。サザンブロット解析により、T-DNA挿入数は平均2.4コピーで、10株については1コピーであった。 TAIL-PCRによりT-DNAタグ隣接配列を取得しゲノムデータベースを用いて解析したところ、10株について遺伝子または遺伝子上流へのT-DNA挿入を確認した。現在、F1世代における連鎖解析と原因遺伝子候補の相補検定を進めており、ゼニゴケにおけるT-DNAタギングの有効性について議論する。