抄録
個々の遺伝子の発現を制御している転写制御因子を同定するには、酵母ワンハイブリッド法がよく用いられる。われわれはシロイヌナズナの転写制御因子でのみ構成される均一化人工ライブラリーを作成し、線虫などでの先例と同様に、それを用いることで通常のcDNAライブラリーを用いるよりもはるかに高効率に目的転写制御因子を同定できることを示した。本研究ではこのライブラリーを用いて、木質形成過程に関与すると推定される約100遺伝子を対象に、そのプロモーター領域に結合する転写制御因子を網羅的に探索した途中経過を報告する。はじめにベイト側は推定転写開始点から上流1,000塩基を用いることにし、プレイ側は、木質形成過程に関与すると推定される32転写制御因子に絞り込み、1対1で個別に結合可能性を検討した。現在までに約2,000通り以上の組合せを検証し、多くの結合を検出した。検出された転写制御因子の多くはVND7やNST1などのいわゆるマスター転写制御因子であった。このことは他の研究でも示唆されているように、これらのマスター転写制御因子が、転写制御ネットワークの末端に位置する酵素遺伝子などの多くの遺伝子発現を直接制御していることを示している。現在プレイ側を全転写制御因子に拡張したり、ベイト側をずらしたりすることでより網羅的な同定ができないかを検証している。