抄録
シロイヌナズナを用いて様々な植物生理に関わる遺伝子の機能を明らかにするためには、突然変異体をスクリーニングし、その原因変異を遺伝学的手法により明らかにするのが一般的である。しかし、従来の多型マーカーを利用したマッピングベースによる原因遺伝子の同定は、膨大な時間と手間のかかる作業であった。私たちは次世代DNAシーケンサーを用いて、変異体の原因遺伝子を迅速、低コスト、かつ高精度で同定する手法の確立を目指している。次世代DNAシーケンサーは超並列にシーケンス反応を行うことで、ひとつひとつの可読断片長は数十塩基と短いものの数億断片を一度に読むことができる。この特性から、次世代DNAシーケンサーはリシーケンス(リファレンスとなる塩基配列が既知のゲノムを再シークエンスすること)を得意とし、シロイヌナズナ研究で頻用されるEMSのような変異原により誘発される点突然変異の検出に特に相性が良い。私たちはラフマッピングと次世代DNAシーケンサーによるゲノムリシークエンスを組み合わせることによって、効率良く原因の変異を同定することにいくつかの例で成功している。一方、変異の同定が難しい実験系も多数経験している。これらの成功例と失敗例に基づいて、スクリーニング戦略からインフォマティクスに至るまで、次世代DNAシーケンサーを用いた変異検出の適切な実験デザインについて議論したい。