抄録
スギ(Cryptomeria japonica D. Don)は、わが国の主要な林業樹種である。目的形質のみ付与できる遺伝子組換え技術は、育種年月の短縮等、林木育種に大きく貢献する可能性がある。しかし、組換え体を野外に出すにあたり導入遺伝子の同種野生植物への拡散が懸念されている。そこで現在、花粉による導入遺伝子の拡散防止技術の開発として、遺伝子組換えによるスギの雄性不稔化を試みている。
ポプラ等において、花器官特異的なプロモーターにBarnase等の遺伝子をつないだ構築物を導入する手法によって雄性不稔個体が作出されているが、多く場合に成長阻害が観察される。成長への影響を抑制するための手法としてBarnaseの阻害因子であるBarstarを栄養組織で共発現させるBarnase-Barstarシステムが効果を示している。現在我々はブロッコリーの葯特異的プロモーターBoA3-p, BoA9-p, スギ雄花特異的プロモーター1009-C47-p, 1009-C96-pを用いたBarnase-Barstarコンストラクトをスギに導入し、遺伝子組換え雄性不稔スギの作出を試みており、その進歩状況を報告する。
本研究の一部は、農林水産省「遺伝子組換え生物の産業利用における安全性確保総合研究」の一環としておこなった。