抄録
植物は多くの微生物に共通して存在する微生物分子パターン(MAMPs)の認識を介してその感染を検出する能力をもっている。一方、病原菌の中にはこうしたMAMPs認識やシグナル伝達系を阻害することにより病原性を発揮するものも見つかっている。最近、トマト葉カビ病菌やイネいもち病菌のような病原菌が、植物のキチン受容体(CEBiP, CERK1)と構造的に類似したLysM型タンパク質エフェクターを分泌することにより、植物のキチン認識と防御応答誘導を阻害していることが分かってきた[1]。我々は、これらのLysM型エフェクター分子がいずれもキチンオリゴ糖に高い親和性を示すことをBIACOREを用いた解析から明らかにした。また、ビオチン化キチンオリゴ糖を利用した親和性標識実験から、これらの分子はキチンオリゴ糖に結合することで、植物受容体によるキチンの検出を阻害していることを見出した。さらに、イネ培養細胞を用いた解析から、これらのエフェクターはキチンオリゴ糖による防御応答の誘導を顕著に阻害することが見出された。以上の結果は、植物と病原菌の相互作用において、キチンオリゴ糖の検出をめぐる植物受容体と病原菌エフェクターのせめぎ合いという分子レベルの攻防が広く行われていることを示唆するものとして興味深い。
[1]de Jonge et al., Science, 329, 953 (2010).