抄録
湿害は作物の収量および品質を低下させる要因の一つである。ダイズは湿害を受けやすく水田転換畑で栽培される事情もありその被害が問題となっている。ダイズの湿害発生機構を解明するため、冠水条件下におけるダイズ発芽種子中のタンパク質をプロテオーム解析手法により解析した。播種後2日後のダイズ発芽種子を1日間冠水処理し、根端部よりタンパク質を抽出した。冠水処理と無処理の間でタンパク質の量的変動およびリン酸化状態の変動を比較解析した。タンパク質の量的変動の解析は、抽出タンパク質をトリプシン消化し質量分析計により解析した。リン酸化状態の変動の解析は、リン酸化タンパク質精製カラムおよび酸化チタンビーズによりリン酸化タンパク質およびリン酸化ペプチドを濃縮し質量分析計により解析した。タンパク質の量的変動の解析の結果、冠水下のダイズ発芽種子根端では、エネルギー合成、情報伝達に関わるタンパク質が増加、タンパク質修飾、細胞構造に関わるタンパク質が減少していた。またリン酸化タンパク質の比較解析の結果、エネルギー合成、細胞構造、タンパク質修飾、転写に関わるタンパク質が脱リン酸化、一次代謝、タンパク質分解、翻訳に関わるタンパク質がリン酸化されていた。以上より冠水ストレス応答がタンパク質量およびタンパク質リン酸化の調節により制御されることが示唆された。