抄録
リンドウは岩手県を代表する花卉であり、全国一の生産量を誇っている。リンドウの品種維持の方法として、現在ではクローン苗培養が用いられているが、培養条件に関わる研究は全く行われておらず、未だ培養不可能なリンドウが数多く残されている。
そこで本研究では、最適な培養条件の確立に向け、主要栄養素であるリン及びカリウム含量を改変したMS培地における、リンドウの生長と代謝物変化を調査した。カリウム欠乏(-K)条件では明らかな影響は見られなかったが、リン欠乏(-P)条件では著しい生育阻害が観察された。興味深いことに、-P条件ではリンドウの越冬器官である越冬芽が形成されることが明らかとなった。そこで、それぞれの条件で育成したクローン苗及び越冬芽から得られた代謝物データを多変量解析した結果、それぞれの条件で特徴的に変動する代謝物群が検出された。-K条件ではATPやNAD等の一時的な増加が観察され、ポリアミンであるプトレシンの顕著な蓄積が観察された。一方、-P条件では、TCA回路の代謝物や、糖リン酸やヌクレオチド等のエネルギー物質が顕著に減少した。この結果から、Pはクローン苗の生育に必須であり、生育不適環境と認識した苗が生存の為に越冬芽を形成したと考えられた。これらの知見は、クローン培養及び圃場におけるリンドウの栽培に有益であり、特に越冬芽の形成と萌芽の調節は新たな栽培技術としての貢献が期待できる。