抄録
我々は、低窒素条件下で植物にアブシジン酸(ABA)を処理するとクロロフィル生合成が促進され、葉が緑色を呈することを報告してきた。従来より、クロロフィル生合成にはサイトカイニンが関与していることが知られているので、低窒素条件下におけるABAとサイトカイニンの相互作用とともに、葉の黄化への活性酸素種の関与を調べた。
低窒素条件下でキュウリ植物にカイネチン(KI)処理したところ、KI処理をしたキュウリの第一葉においてはクロロフィル含量が減少した。この時のクロロフィル生合成遺伝子の発現量を調べたところ、KI処理区は無処理区と比較してクロロフィル生合成の律速酵素であるGLUTAMYL-tRNA REDUCTASEの遺伝子発現量が減少していた。また、ABA生合成遺伝子の発現量を調べたところ、KI処理区は無処理区と比較してその発現量が減少した。低窒素条件下でKIあるいはABAを処理した植物の子葉と第一葉をDAB染色したところ、いずれにおいてもABA処理区ではH2O2蓄積量が少なく、KI処理区ではH2O2蓄積量が多いことが示された。
以上の結果より、低窒素条件下においては、ABAにより活性酸素の蓄積が抑制され、酸化ストレスが軽減されることが、クロロフィル量の維持にとって重要であることが示唆された。現在、低窒素条件下でのキュウリ葉のクロロフィル量と活性酸素消去系との関係を検討中である。