抄録
Cyanidioschyzon merolae(シゾン)は硫酸酸性の温泉に生息する光独立栄養性の単細胞紅藻であり、一細胞当たりに核、葉緑体、ミトコンドリアをそれぞれ一つずつ有する単純な細胞構造をとる。シゾンは核と葉緑体において多くの遺伝子が明暗により制御されることに加え、遺伝子構成が単純であることから、光情報伝達機構の解明に優れたモデル植物として期待される。
高等植物では、DET1は暗所において光応答性遺伝子発現を負に制御する因子として知られ、発生や分化など幅広い細胞機能に深く関わる。DET1はクロマチンと結合能を有し、Cul4-DDB1と複合体を形成してクロマチン構造を介した転写制御を行っていると予想されているがその詳細な機構は明らかとなっていない。
シゾンのゲノム上にはDET1が存在し、DET1が光応答性遺伝子群の発現調節に関わることが予測された。そこで、DET1が担う分子機構を解明することを目的とし、シゾンにおいてdet1破壊株を作製した。まず、この株を明暗条件下で培養したところ、増殖の阻害が認められた。次に明暗における光応答性の遺伝子についてノーザン解析を行ったところ、高等植物と同じように一部の核、葉緑体コードの遺伝子が暗条件においても高いレベルで蓄積していた。現在、転写抑制の代表的なマークであるヒストンH3K9のジメチル化とDET1との関連についての解析を進めている。