抄録
ヒメツリガネゴケは硝酸イオン能動輸送体であるNRT2を8分子種もつが、NRT2;1~NRT2;4が主要成分で他はほとんど発現していない。すべてのNRT2の発現は硝酸イオンによる活性化とグルタミンによる抑制を受ける。しかし、主要NRT2のうちで比較的高親和性のNRT2;1, NRT2;2, NRT2;4のmRNAの量が無窒素条件で増加して硝酸十分条件で減少するのに対して、やや低親和性のNRT2;3のmRNAの量は硝酸十分条件で増加して無窒素条件で減少する。NRT2;1とNRT2;3の発現様式の違いについてルシフェラーゼ遺伝子をレポーターとして解析したところ、NRT2;1プロモーターが無窒素条件で高い活性を示したのに対して、NRT2;3プロモーターは高濃度の硝酸イオン存在下で高い活性を示した。これらの結果より、異なる窒素条件下におけるNRT2転写産物の選択的蓄積が、主にNRT2遺伝子のプロモーターの活性制御によるものであることが示された。NRT2;1とNRT2;3のプロモーター領域をそれぞれ転写開始点からの長さが1169 bpと1243 bpまで削っても、特徴的な窒素応答は失われなかった。しかし、NRT2;3プロモーター領域を633 bpまで削ると硝酸への応答が弱まり、NRT2;3の転写開始点から上流 -1243~ -634に硝酸応答に必要な領域が存在することが示された。