抄録
気孔は青色光に応答して開口する。この気孔開口は、青色光が孔辺細胞のフォトトロピンによって受容され、下流の細胞膜プロトンポンプの活性化を介して、細胞膜を横切る過分極を引き起こし、カリウムの細胞内への取り込みを駆動することによって誘導される。しかし、光に依存した気孔開口のシグナル伝達の全体像は未だ不明な点が多い。本研究では、このシグナル伝達を解明するため、赤外線サーモグラフィーを用いて、光によって気孔が開口しない突然変異株のスクリーニングを行った。その結果、光照射によっても気孔が開かず高い葉温を示す変異株(24-H9)を得た。24-H9株の気孔は、生葉でも表皮でも、光に応答した開口は見られなかった。しかし、青色光に依存した孔辺細胞のプロトンポンプのリン酸化は正常であった。一方、24-H9株の孔辺細胞では、内向き整流性カリウムチャネルであるKAT1とAKT1の遺伝子発現がともに70%に低下していた。マッピングの結果、24-H9株の原因遺伝子は、植物ホルモンブラシノステロイドの生合成酵素の一つをコードするDWARF5 (DWF5)であった。他のブラシノステロイド生合成酵素DET2やブラシノステロイドの受容体BRI1の変異株においても、24-H9株と同様に気孔開口が損なわれていた。以上の結果は、ブラシノステロイドがカリウムチャネルの発現を介して気孔開口を調節していることを示唆している。