抄録
大腸菌の低温馴化においては,RNAシャペロンとして低温下で形成されるRNAの2次構造を解消する活性をもつ低温ショックタンパク質(CSPs)が必須である.植物の低温ショックドメイン(cold shock domain ; CSD)タンパク質は細菌のCSPsと高度に保存されたドメインをもつ.我々は,コムギおよびシロイヌナズナのCSDタンパク質を同定し,それがRNAシャペロン活性を持つことを明らかにしている.本研究ではシロイヌナズナをモデルとして植物CSDタンパク質の生体内における機能を解明することを目的とし,以下に示す結果が得られた. シロイヌナズナのCSDタンパク質の1つであるAtCSP2の過剰発現株は発芽の遅延,植物体の縮小,花成の遅延等の多面的な表現型が見られた.また,AtCSP2過剰発現株は野生株と比較して,低温馴化後の耐凍性が低下していた.次に,AtCSP2ノックダウン変異株およびAtCSP2の相同遺伝子であるAtCSP4のノックアウト変異株を単離し,AtCSP2と4の二重変異株を作出した. その結果,二重変異株は野生株と比較して花成が促進し,低温馴化後の耐凍性が向上していた.二重変異株では耐凍性獲得のマスター因子(CBF)およびその制御下遺伝子の発現が上昇していることから,AtCSP2は低温馴化過程において,CBFを介して耐凍性を負に制御していると考えられる.