抄録
我々は、植物に持続的で強い抵抗性を付与する目的で、菌類病菌の普遍的なMAMPsであるキチンオリゴ糖に対するイネの応答性の改変を試みている。キチンオリゴ糖受容体CEBiPと受容体型キナーゼ(RLK)であるXA21(イネ白葉枯病抵抗性タンパク質)の細胞内領域を融合させた人工受容体CRXAを発現する組換えイネでは、キチンオリゴ糖処理による細胞死誘導が亢進し、いもち病抵抗性が向上した(Kishimoto et al. 2010)。今回、XA21とは異なるタイプのRLKの利用の可否を調べる目的で、CEBiPと日本晴型Pid2(RLK型いもち病真性抵抗性タンパク質ホモログ)との融合タンパク質CRPiを発現するイネの解析を行った。CRPi発現細胞では、キチンオリゴ糖処理後のオキシダティブバーストが亢進するなど、応答性に変化が認められたが、細胞死誘導レベルはCRXA発現細胞よりも低かった。次に、CRPi植物体の葉鞘と葉身におけるいもち病抵抗性を検定したところ、菌糸の伸展や病斑形成がベクターコントロールと比べて有意に抑制され、いもち病抵抗性の向上が認められた。以上の結果から、CEBiP をXA21とは異なるRLK型抵抗性タンパク質の細胞内領域と融合させた場合でもキチンオリゴ糖シグナルの受容と変換が可能であり、いもち病抵抗性の付与に利用できることが示唆された。