抄録
イネの転写因子WRKY45は、サリチル酸経路に作用する薬剤による誘導抵抗性において中心的役割を担う。トウモロコシ・ユビキチン・プロモーターを用いたWRKY45発現イネ(PMaize Ubi:WRKY45)は、いもち病および白葉枯病に対して強力な抵抗性(複合抵抗性)を示す。しかしながら生育遅延や収量の低下などの農業形質への悪影響のため、この系統は実用利用ができない。そこで、複合抵抗性と農業形質の両立を図るため、イネ由来の様々な恒常発現プロモーターの制御下にWRKY45を発現するイネ系統を作製して最適化を試みた。
様々な発現特性をもつ22種のイネ遺伝子の転写開始点上流配列(2 kb)を単離し、下流にWRKY45 cDNAを接続してイネに導入した結果、葉身において様々なレベルでWRKY45を発現する形質転換イネ系統を多数得た。このうち3種の上流配列(POsUbi1, PEF1α, POsUbi7)をプロモーターとして用いたWRKY45発現イネにおいて、いもち病および白葉枯病に顕著な抵抗性を示した。また、POsUbi7:WRKY45イネは、野外環境追随温室において、PMaize Ubi:WRKY45イネよりはるかに良好で、非形質転換イネに匹敵する生育と収量を示した。これらの結果により複合抵抗性と農業形質が両立するイネ作出への可能性が示された。