抄録
強い生殖隔離により雑種致死するタバコ種間雑種(N. gossei x N. tabacum)の培養細胞GTH4は、37℃から26℃への温度遷移で直ちに細胞死を起こす。我々は、これまでにGTH4の細胞死が活性酸素種(ROS)と一酸化窒素(NO)、特にO2-とNOの量比バランスおよびH2O2とNOの相互作用の制御下にあることを確認し、またROS発生がMAPK経路の制御下にあることを明らかにした。しかし、NO発生がどのような制御下にあるかは不明であった。本報告は、動物のNO合成酵素(NOS)、植物のNO発生に寄与する可能性の高い硝酸還元酵素(NR)への阻害剤投与実験から、NO発生の機作と細胞死について検討すると共に、培養細胞で確認できたROSとNOの作用が、やはり温度依存的致死をおこす雑種幼苗においても同様であるかを調査した。NOSの阻害剤であるL-NAME投与は細胞死を抑制したが、細胞外に放出されるNO量への抑制効果はなかった。誘導型NOSの阻害剤であるAG投与は共に効果はなかった。NRの阻害剤であるタングステン酸投与は、細胞死を抑制したが細胞外NO量には影響しなかった。これらの薬剤による細胞内NO量については調査を進めている。他方、雑種幼苗でのROSとNOの動態は、幼苗の細胞死の動態と合わせて培養細胞で確認されたO2-とNOの量比バランスが重要であることを示していた。