抄録
高効率な人工光合成系の開発は、現在人類が直面するエネルギー問題、地球温暖化問題を解決するために極めて重要な課題である。高い量子効率で光エネルギー変換反応を行う天然の光合成蛋白質を利用したハイブリッド型人工光合成系の開発は、その一つの方向性として注目されてきた。本研究では、光水分解ナノシステムの開発を目指して、光化学系IIコア蛋白質(PSII)と金ナノ粒子との複合体形成を行った。CP47サブユニットのC末端にヒスチジンタグを導入した好熱性シアノバクテリアT. elongatus のPSII二量体を、Ni-NTAを介して直径20 nmの金ナノ粒子へ結合させた。PSIIのクロロフィルQyバンド(674 nm)と金ナノ粒子のプラズモン吸収(530 nm)の吸光度の比から、金ナノ粒子あたり約4つのPSII二量体が結合したことが示された。金ナノ粒子へのPSII蛋白質の結合は、透過型電子顕微鏡観察によっても確認することができた。Niアフィニティーカラムへの結合能から、PSIIのほとんどはヒスチジンタグを介して金ナノ粒子に結合していると結論された。このPSII-金ナノ粒子複合体は、コントロールPSII試料に対し約26%の酸素発生活性を示した。これらの結果から、本研究で得られたPSII-金ナノ粒子複合体は、水から電子を得る光エネルギー変換ナノデバイスとして応用が可能であると考えられる。