抄録
葉緑体チラコイド膜上には光化学系II・光化学系Iを経由するリニア電子伝達反応と、光化学系Iの回りに電子を循環させるサイクリック電子伝達反応が存在する。リニア電子伝達が炭素固定に必要なATP・NADPHの供給源であるのに対し、サイクリック電子伝達は補助的なATP供給源であると同時に光障害回避のための制御機構として重要である。リニア電子伝達における二つの反応中心の励起バランスはコアタンパクに付随する集光アンテナタンパク質を可逆的に移動させるステート遷移と呼ばれる機構によって制御されている。緑藻クラミドモナスではこのステート遷移の能力が特に高く、励起バランスの制御のみならずサイクリック電子伝達の制御にも関与していることがわかっている。クラミドモナス生細胞中でのステート遷移と電子伝達反応を精密に測定し、相関関係を調べると、その電子伝達反応はステート遷移によって2段階の制御を受けていることが明らかとなった。1)光条件の変化のような比較的緩やかな環境変動に対しては光化学系I及びIIのアンテナサイズを変化させてリニア電子伝達を最適化するように働き、2)嫌気条件のような激しい環境変動にはリニア電子伝達からサイクリック電子伝達へ電子伝達経路を転換して光障害を回避するように働く。環境変動の程度はプラストキノンプールの酸化還元状態に反映され、必要なレベルでのステート遷移を引き起こしている。