抄録
緑色硫黄細菌は絶対嫌気性の光独立栄養細菌である。その光合成系は、光合成反応中心(RC)がホモダイマー構造である、カルビン回路ではなく還元的TCA回路で炭素固定を行うなど、他の光合成生物にはない多くの興味深い特質をもつ。しかしながら絶対嫌気性であるために、生化学的手法を用いた光合成系の研究は困難である場合が多い。緑色硫黄細菌Chlorobaculum (Cba.) tepidumは、全ゲノム情報と相同組換えによる形質転換系が利用可能であり、これまで光合成に関連するタンパク質の機能の多くは遺伝子破壊株作成によって調べられてきた。一方、緑色硫黄細菌は光合成でしか生育できないため、光合成に必須な遺伝子産物の解析はほとんど進んでいない。より詳細な解析には、破壊株への相補遺伝子導入や部位特異的変異遺伝子の発現系構築など分子遺伝学的手法の改良が必要である。
今回、汎用性の高い系の開発を目指し、プラスミドによるCba. tepidumへの外来遺伝子導入とその発現系の構築を試みた。大腸菌との接合実験により、RSF1010由来の広宿主域プラスミドが安定に保持されることがわかった。これにRCコアタンパク質遺伝子pscAのプロモーター配列を組み込むことで発現プラスミドを構築し、外来遺伝子としてHisタグ付きRCコアタンパク質の発現を試みたところ、良好な発現が確認できた。