抄録
カルジオリピン(CL)は、真正細菌から真核生物のミトコンドリアにまで広く存在する特徴的な構造をもったリン脂質である。私たちは真核多細胞生物で初めてCL合成酵素遺伝子CLSをシロイヌナズナにおいて同定し、その遺伝子にT-DNAが挿入されたタグラインclsを用いてCLの機能を解析している。cls/clsは胚発生を中心として生育速度が遅延し、CLが局在するミトコンドリアの形態が異常であった。このうち、異常の程度が大きいcls-2/cls-2は、CLSの機能が完全に欠失していると考えられた。実際、外来エストロゲンの投与によりCLSの発現を誘導できるpER8:CLSをcls-2/cls-2に導入した株の単離ミトコンドリアを用いた解析では、誘導前の状態ではCLS活性を検出できなかった。しかし、cls-2/cls-2の芽生えを[33P] Piで長時間ラベルしてCL量を測定したところ、全リン脂質中に占めるCLの割合はWTと比べて低下していたものの、cls-2/cls-2においてもCLと思われるスポットが検出された。これらのスポットおよび他の植物におけるCLのGCによる脂肪酸分析およびTOF-MS解析の結果を基に、植物におけるCLの合成と機能について議論したい。